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2011.06.05

なぜ優秀なプログラマは人を雇わないか

 僕の知っている範囲だと、優秀なプログラマはフリーランスか小規模な法人のオーナー社長であることが多い。人を雇っている場合でも、ほんの数人である。もちろん僕もその一人。そりゃまあGoogleやMicrosoftの本社には凄いプログラマもいるだろうけど、日本人だと本当に一匹狼系の人が多い。
 僕もフルタイムの従業員を雇って1年以上経ち、人を雇うと何が起きるのかについてけっこう分かってきた。なので、なぜこのようになるのかについて考えてみた。

 なんと金銭的な面「だけ」でも、合理的な理由をつけることができる。僕を含めた何人かを平均したモデルで例を出してみよう。すごく単純化しているけれど。

 いま一人の優秀なプログラマがいて、平均的な会社でサラリーマンとして働いても年俸1000万取れる実力があるとしよう。この人が独立した場合、「好きなプロジェクトを選べるのでやる気が出る」「独立していることについてのリスクプレミアムも自分で取れる」という要因で、能力は同じでも2000万/年はほぼ確実に取れることになる。
 つまり、フリーで誰も雇わずに独立して仕事すれば年収2000万だ。

 そこで、彼が人を1人雇った場合を考える。
 人を雇った場合、彼の半分の能力を持っていれば上出来である。半分、というのは、もともとの素質の面もあるし、オーナーか雇われかというモチベーションの違いもあるので概ね妥当だと思う。決してこの従業員がボンクラということではなく、どうしたってそうなるものだ。
 一方、この従業員にいろいろ指示をしたり、仕事の軌道修正を日々したりする必要があるので、彼が一人で仕事しているのに比べて少なくとも10%の時間は指示を出すことに使わざるを得ない。すると、自分の10%を犠牲に50%の追加能力を獲得したから、全体としては人を一人雇って140%の力になったことになる。
 実際には、従業員が半分以下の能力しかないことも、10%以上の時間を取られることも多いので、140%というのは高めの見積もりである。

 一方、この従業員には少なくとも年500万は払う必要があるだろう。そこそこ使える人材を取るには必要なコストだ。それに社会保険やオフィスの家賃を加えると彼の負担増加は年600万である。

 同じ理屈で、2人雇えば180%の力になるだろう。おおむね、売上が仕事のパワーに比例するとすれば、表にまとめるとこういうことになる。

能力売上人件費利益
1人でやる100%2000万02000万
1人雇う140%2800万600万2200万
2人雇う180%3600万1200万2400万

 これが示すのは、この優秀な人が一人雇ったところで、自分の実入りは10%しか増えない、ということだ。一方、人を雇った場合、仕事が不調な時期でも給料を払わなくてはいけない緊張感や、自由な時期に休暇が取れない不便があるので、これでは人を雇う意味が薄いのである。
 一方、年俸1000万クラスの従業員を雇うのは売り上げ規模的に無理がある。

 金銭面だけでもこうなのに、加えて優秀なプログラマは、

* 総じて内向的であり、人を雇ってビシビシ指示を出すのに向いていない性格のことが多い
* 自分が集中してコーディングをする時間を邪魔されるのを極端に嫌う

 という傾向があるために一層人を雇う意欲が薄くなる。

 僕の身の回りではほぼこの理由で、「人を雇って規模拡大を目指さない優秀なプログラマ」が多い説明がつく。
 実際日本ではそういう名の知れた会社はないし、わずかにその傾向があるMixiやGreeでさえ創業者は文系学部出身だ。個人的面識はないが、おそらく子供のときにプログラミングはさほどしていないだろうし、技術的に興味深いことをしている会社ではないのでハッカー文化は持ち合わせていないのだろう。
 念を押しておくと、これは創業者が優秀なプログラマである会社のケースであって、創業者がプログラミング以外の才能を持っている場合はまったく違う前提になる。

 ところがアメリカではそうではない。反例はゴロゴロしている。ビル・ゲイツを元祖として、凄いプログラマが創業した大きな会社はたくさんあるので、何かこの論理で根本的に見落としている部分があるはずだ。
 自分で怪しいと思うのは、「売上が仕事のパワーに比例するとすれば」というところだけども。実は比例より強く増えていくのかもしれない。

 まあもちろん、どっちが正しいというわけではないです。少なくとも僕は、資金繰りや株主からの突き上げにキリキリしながら組織を回すより、少数の仲のいい仕事仲間と家族が幸福だったり、ときおりプライベートなハッキングをするほうが明らかに好きですがね。

→反響がわりと大きかったので補足記事を書きました。

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コメント

イヤ端的に使えないやつが来た時に辞めさせにくいのが日本の雇用の特徴なんじゃないの?

フリーランスの方って、有能な人ほど
このような主張をされますね。
才能がある人は、他の人を見下してるんだと思いますがw

でも、自分ひとりで仕事をしていたら、
体調を崩したり、事故や怪我などをしたときに
どのように対処されるんでしょうか?

リスクヘッジをするために組織をつくるのではないですか?

お久しぶりです。

アメリカの例云々でいうのであれば、向こうは優秀な人同士でつるんで定数倍の成果を出すような気がする。イメージだけど。
社会が発展してきたのは分業化を成功させて効率化させてきたからなわけでそれをより優秀な人同士でやれば凄いことが起きるのは理論的におかしくないと思う。
あと経営ってものが日本よりずっと体系化されててオタクで理系な人が学べば必要な能力を日本よりずっと自然に身につけられそう。だから理系の経営者が生まれ易いのかも。

でも実際にはそんなことより文化や習慣の方がずっと影響大きい気はするけどね。優秀な理系に起業して拡大させることを合理的だと判断させるだけの土台を準備してるところにアメリカの存在意義を感じる。

まあ受注の場合はそうかなと。
osやパッケージソフト、コンテンツサイトとかは優秀な人材を集約させて高品質なものを作れば取り分増えるんじゃない?
これでビルゲイツやグーグルなどの説明がつくはず。

会社に勤めてても、風邪とかひいても少人数だと休めるとは限らないしなぁ。結構納得する部分も多いです。

プログラマは無駄が嫌い!

向こうのベンチャキャピタルは、エンジニア系の会社に出資する場合は優秀な経営者も付けるんでしょう?

岡嶋さんも優秀な経営者を雇ったら?

共同で仕事をする場合、適当なレンタルサーバーを借りてSVNを構築するという手もあります
サーバの費用が別途かかりますが、よほど能力の高いサーバーでなければワンフロアー借りるよりは安く済むように思えます

>ところがアメリカではそうではない。反例はゴロゴロしている。ビル・ゲイツを元祖として、凄いプログラマが創業した大きな会社はたくさんあるので、何かこの論理で根本的に見落としている部分があるはずだ。
マイクロソフトの場合、スティーブンハルマーという優秀なマーケティング担当者がいたという要因もあると思います

シリコンバレー型のベンチャーは、グローバルに普及するプロダクトを1つ作ることを目標にすることが多いので、
売上は地球の人口に比例するのだと思います。

あと、ビルゲイツはある時期から一切コードを書いていないと聞いたことがあります。

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 そこで、彼が人を1人雇った場合を考える。  人を雇った場合、彼の半分の能力を持っていれば上出来である。半分、というのは、もともとの素質の面もあるし、オーナーか雇われかというモチベーションの違いもあるので概ね妥当だと思う。決してこの従業員がボンクラという... [続きを読む]

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